ミニアルバム「犬も歩けば棒に当たる」より先行配信リリース!
先日、4月1日(金)にビルボードライブ横浜、5日(火)にはビルボードライブ大阪で久しぶりのステージに立ったことでも話題となった成田昭次。ライブタイトルに掲げられた『犬も歩けば棒に当たる』、これは6月15日(水)にリリースされることが決定したミニアルバムのタイトルだということも明かされた。そのミニアルバムから、彼のソロとしては13年ぶりとなる新曲2曲が先行配信リリースとなった。
まずは『どんでん返しのラストシーン』。ハーモニクスの響きに目を覚まされるようなエレキギターが3本絡み合うイントロが印象的なこの曲は、成田昭次本人の作詞作曲によるものだ。驚いたのは歌詞の即時性だ。この曲がいつ制作されたのかは不明だが、歌詞から受ける印象だけで言えば、ついさっき書き上がったばかりといったホットなものだ。まさに新曲という言葉がぴったりと当てはまる。
2番のBメロにこんなリリックがある。
〈とんちんかんな独裁者 誰かが変化を起こす時だ〉
現在進行形で起こっている世界情勢について言及したものではないかもしれない。けれど、いやだからこそハッとさせられるものがそこには含まれている。仮にこの歌が、20世紀のいずれかのタイミングで放たれていたとしても、その時代に暮らす人々は“今の歌”としてすんなり受け入れられたのではないだろうか。つまり、いつの時代にも独裁者はいて、我々の自由を脅かしている。さらには、疫病も災害も……。人類が常に求めてきたもの、それこそが『どんでん返しのラストシーン』だ。そういう意味でこの曲は、生まれながらにして普遍的なポップスとしての宿命を背負っていると言えるだろう。まるで歴史を俯瞰しているような雄弁なフレーズで奏でられる後奏のギターソロの余韻とともに、もう一度再生ボタンを押したくなる曲だ。
そして『パズル』。こちらは王道のUKロックを彷彿とさせるサウンドが特徴だ。ある地点から若かったあの頃を振り返るという歌詞も王道と言えば王道ではあるし、多くの人が自分の物語として共感できるものになっている。ただそこには、誰にも当てはまらない自分だけのパーソナルな感情が見え隠れしている。その部分がこの曲をオリジナルなものとして際立たせている。ではそのパーソナルな感情とは何か――。それは、バンドマンとしての誇りや後悔だ。かつて忌野清志郎はその著書の中でこんなふうに書いている。
〈「ロックバンドでメシが食いたい」でも「音楽でメジャーになりたい」でもなく、自分の夢は「バンドマンでありたい」だったわけだ。〉
一度真剣にバンドマンだった者は、時を経て様々な変化を受け入れながらも、バンドマンだった頃の自分だけは変わらず頑固に持ち続けているのではないだろうか。成田昭次も、この曲のコンポーザーである寺岡呼人も、かつてバンドを組んでいた。寺岡もベースで参加した冒頭で触れたビルボードライブ横浜&大阪でのライブでもまさにバンドとしての音を愚直なまでにクリエイトしていたのが印象的だった。バンドマンはそれぞれのピースとなり1枚きりしかないパズルを完成させる。その変わらない想いが、The BeatlesからOasisまでのUKロックど真ん中をあえてなぞるように展開されていくサウンドに共鳴して、楽曲をより一層ドラマティックなものにしている。
『どんでん返しのラストシーン』『パズル』。間違いなく、今の成田昭次にしか表現できない2曲だ。
文:谷岡正浩